当支部では2015年11月14日(土)、名古屋大学IB電子情報館大講義室を会場に、応用物理学会東海支部50周年記念講演会「持続可能な社会の実現と科学技術の果たす役割-若い人達へのメッセージ-」を開催しました。中・高・大学生・院生・大学関係者・社会人を含め、約200名が参加し、講演会とそれに続く講師どうしとの座談会が組まれ、盛況裡のうちに閉会しました。
東海支部が生まれ、歩んだ半世紀の間の応用物理分野の科学技術の発展はめざましく、われわれの生活や社会の進歩に多大な貢献や影響を与えてきましたが、一方で、資源・環境問題やエネルギー問題、高齢社会、医療・健康問題、安全・安心問題、教育格差など、様々な社会的課題が抜き差しならない状態にまでなってきています。これらの課題を解決して持続可能な社会を実現するために、次世代の科学技術を担うこの地域の大学院生、大学生、高校生や若手研究者、若手技術者の方々に、われわれの抱えている社会的課題と科学技術の果たすべき役割、研究や技術開発に対する考え方などについて、今日の科学技術や経済を先導してこられたトップの方々に熱く語っていただく機会として本講演会は企画されたものです。
お呼びした講師は次の3名の方々です。
豊田工業大学長 榊 裕之先生
名古屋大学特別教授 天野 浩先生
トヨタ自動車株式会社代表取締役会長 内山田竹志様
講演会は、まず応用物理学会東海支部長 宮崎誠一名古屋大学教授による開催趣旨と支部の誕生・発展の経緯および現在実施中の諸活動についての説明を兼ねた挨拶に始まり、引き続き榊裕之学長、天野浩特別教授、内山田竹志会長の順にご講演がおこなわれました。
榊裕之先生は「学術・文化および産業・経済の発展の基としての応用物理学」と題してご講演されました。産業を支える基礎科学の重要性、技術が科学を牽引し、また科学と技術は支えあい進化するものであること、 加えて、今後、持続可能社会の実現のために科学技術の総力を挙げてエネルギー問題の解決を図らなければならないこと、QoL向上のためのSeed開拓の必要性、国家レベルで価値観の見直しと共有、T型知性を持った優れた人材の育成などが今後重要であると指摘をされたのが印象的でした。
天野浩先生は「未来ビジョンと突破力」と題してご講演されました。ご自身のGaNの研究の経験から、一つの研究に参加している全員が、立場にとらわれることなく、それぞれ自らの発言に責任をもって自由に議論することが突破力の元であること、また、産官学の強固な連携と決めたことをやり抜く決意がイノベーション成功の大きな鍵であると強調されていました。
これからは、エネルギー問題の解決に向けたワイドバンドギャップ半導体パワーデバイスの応用など考えられる限りの取り組みをすべきことや、短波長発光デバイスの広範な用途開発、女性が活躍できる環境を整えること、世界に通用する若者の育成、起業教育など、将来に向け取り組むべき多くの指針を語られました。
内山田竹志会長は「イノベーションが未来を拓く-プリウスの開発と産学官連携への期待-」と題してご講演されました。ハイブリッド自動車の開発に成功した要因として、これが社会のニーズや歴史の必然性に合致した開発テーマであったこと、行うべきことを自ら決めて実行できる環境があったこと、高い目標とタイムターゲットを設定して出口を見ながら仕事を進めたことなどを紹介されました。 また、未来社会に向けた取り組みとして、水素社会の実現が歴史の必然(エネルギーの多様性の確保、エネルギーの地産地消、エネルギーの変動吸収)であるなら、たとえ困難な道であってもそれに貢献する究極エコカーとしてのFCV(MIRAI)を創る価値があるとの考え方は、分野の異なる人たちにも共感を持って受け入れられたことと思います。
日本は今、イノベーションを成功させなければいけないとする高い意識下にあります。具体的には、総合科学技術・イノベーション会議の機能強化(R&Dの司令塔機能の強化)、省庁横断型R&D(SIP)の積極的推進、非連続イノベーションの実現(IMPACT)等、官主導の活発な取り組みが進んでいます。内山田会長の座右の銘は『挑戦』とのこと、この機会をうまくとらえて実効性ある研究開発に「挑戦」しない手はないという感想を持ちました。
講演会の後、引き続き原邦彦豊橋技術科学大学特定教授の司会のもとに、講師の3人の方々および宮崎誠一名古屋大学教授の4名で「持続可能な社会の実現と科学技術の果たす役割-若い人達へのメッセージ-」について座談会が行われました。
講師の方々が語られた内容を端的に表すキーセンテンスは、次の通りでした。
1. 大学での基礎学問の習得は極めて大切である。加えて、実社会とのつながりついてもっとしっかり教育の中で語られることが必要
2. 数理科学の重要性を認識してこれを学び、物事を論理的に考えられるセンスを磨くことが必要
3. 実社会に飛び込んだ時に、仮に不本意な仕事に就いたとしても、そこで3年間は全力で頑張るか頑張らないかが、その後の人生を大きく左右する
4. 研究テーマはグローバルな視点で検討し、選択されなければいけない。たとえば、少・水問題等
5. 智慧は困ったときにひらめく
6. 社会が抱えている大きな課題の解決に向けた必然性のあるテーマに取り組むことが重要
講師の先生方から、若い人達へ向けた熱いメッセージが語られ、また、参加したフロアーの中学生から「空を飛ぶ自動車の研究はやらないのですか」と言った内山田会長への質問もあり、盛り上がった座談会となりました。
(豊橋技術科学大学:原 邦彦)