令和4年11月2日付けで令和4年秋の勲章受章者が発表され,この度の叙勲で,堀勝先生が紫綬褒章を受章されました.
堀勝先生は,1981年に早稲田大学理工学部電子通信学科を卒業された後,1983年3月同大学大学院理工学研究科修士課程を修了,1986年に名古屋大学工学研究科博士課程後期課程を修了,工学博士を取得されました.(株)東芝総合研究所・超LSI研究所での勤務を経て,1992年に名古屋大学工学研究科電子工学専攻に助手として着任されました.1994年より名古屋大学工学部講師,1996年に同・助教授,2004年から同・教授として電子工学専攻ナノプロセス講座を担当されてきました.また2009年に名古屋大学大学院工学研究科附属プラズマナノ工学研究センター長,2013年からは名古屋大学プラズマ医療科学国際イノベーションセンター長,2014年から名古屋大学未来社会創造機構人とモビリティ社会の研究開発センター教授を歴任され,2019年からは名古屋大学低温プラズマ科学研究センター教授,センター長に就任されております.また1997年8月から同12月には英国ケンブリッジ大学キャベンディシュ研究所・客員研究員を,2011年11月から2019年9月にはNU- SKKU先端プラズマナノ材料研究所(韓国)の研究所長を歴任されました.この間,文部科学省「知的クラスター創生事業」(第I期)(2003年度〜2007年度),同(第II期)(2008年度〜2012年度),文部科学省・科学研究費補助金・新学術領域研究(研究領域提案型)「プラズマ医療科学の創成」(2012年度〜2016年度),同・特別推進研究「プラズマ誘起生体活性物質による超バイオ機能の展開」(2019年度〜2023年度)など,多くの大型研究事業を代表として主導されました.まさに分野の枠を超えて,強力なリーダーシップと溢れ出るアイデアで低温プラズマ科学研究を世界的に先導され,新しい学際領域の礎を築いてこられました.これらの成果を下に,低温プラズマ科学分野で初にして我が国唯一の文部科学省・共同利用・共同研究拠点「低温プラズマ科学研究拠点」設立し,初代拠点長に就任されました.
堀勝先生は,低温プラズマ科学と応用研究において,40年以上にわたり,一貫して先進プラズマ科学の開拓に挑戦され,プロセス,計測,制御および装置に革新的な発明・発見を成し遂げ,半導体からバイオ分野にわたって大きなブレークスルーをもたらされました.例えば,半導体プロセス分野では,1980年代において,様々な材料のプラズマエッチングにカーボンマスクが適用できることを,集積回路製造で初めて実証することに成功され,現在の3D-NANDメモリの製造に続く,科学技術基盤を開拓されました.また,プラズマプロセス中の原子状ラジカルの超小型計測装置を発明し,太陽電池など形成に必須であるシランガスプラズマプロセス中の水素ラジカルの絶対密度の計測に世界で初めて成功し,「プラズマ計測」分野を切り開かれ,ラジカルと固体との相互反応機構を解明し,制御する「ラジカル制御プラズマプロセス」と「プラズマ材料科学」の新たな潮流を創出されました.さらに同手法を駆使して,世界で初めて触媒を使わずにカーボンナノウォール(CNW):三次元垂直ナノグラフェンの合成に成功され,その結晶構造や電子物性の解明,高耐久性燃料電池や二次電池,バイオセンサなどの革新的応用を実証されました.更に近年,幅広型で従来よりも二桁以上プラズマ密度が高い,超高密度大気圧低温プラズマ源を発明され,同装置を用いたプラズマのバイオ・医療応用にも展開されております.具体的には,プラズマ照射による,卵巣がん細胞の選択的死滅や,中枢神経細胞の増殖と分化を世界で初めて発見されました.さらに,プラズマを細胞培養液に照射した「プラズマ活性培養液(PAM)」や,プラズマ活性乳酸(PAL)を発明され,様々ながん細胞における選択死滅を確認され,動物実験でもその有効性を実証されました.現在,学術用語(PAM)が広く用いられるに至っております.PALは,がん治療に加えて,コメやイチゴなどの植物の驚異的成長促進や超機能化を引き起こすことも発見され,「プラズマ生命科学」の開拓とその発展に尽力されてきました.これらの成果発表は,640報の学術論文,216件の特許登録数(出願数369件),1,830件の国際会議論文発表(340件の特別講演,基調講演,招待講演などを含む)などに至っています(2022年3月時点).またその卓越した成果から,これまでに,平成22年度科学技術分野の文部科学大臣表彰・科学技術賞(研究部門)受賞 (平成22年4月13日),産学官連携功労者表彰・科学技術政策担当大臣賞受賞(平成23年9月22日),日本学術振興会・プラズマ材料科学賞(基礎部門賞)(2012年8月6日), K-T Rie Award 2019 (12th Asian-European International Conference on Plasma Surface Engineering)(2019年9月4日),DPS(International Symposium on Dry Process) Nishizawa Award 2020(2021年11月18日),Reactive Plasma Award(2022年10月)をはじめとする数々の受賞をされています.
応用物理学会の関係では,応用物理学会東海支部役員及び支部長,応用物理学会常務理事を歴任され,2012年度にはフェロー表彰(2012年9月12日)を,2013年度に応用物理学会東海支部貢献賞(2013年1月5日)を受賞されております.また2011年から現在まで日本学術会議・連携委員を務められ,さらに学術振興会「153委員会」プラズマ材料科学・委員長や表面技術協会・理事,GEC,ISPlasma,SSDMなど多くの国際会議で組織委員長や実行委員長を担われ,アカデミアの発展,アカデミアと産業との連携に尽力されてきました.
この度の受章,誠におめでとうございます.